このブログでも告知しました鬼北町文化財シンポジウムに行ってきました。
先週の土曜日のことなのですが、私自信の整理も兼ねて、少し時間をかけてまとめてみましたのでご紹介が遅くなりました。長文になりましたが、興味のある方はお付き合いください。
これは、平成23年9月20日の台風15号の豪雨によって、鬼北町の等妙寺旧境内(国指定史跡)で発生した大規模な地滑り災害に端を発したシンポジウムです。
同じく、集中豪雨による土砂災害で、愚陀仏庵全壊という被害にあった松山城、クスの根の伸長によって石垣が破壊された宇和島城、そして、植生、波、雨水の影響によってその保存が脅かされている能島城、それぞれの事例発表がありました。
文化財のシンポジウムとしては大変珍しいテーマでしたが、町内、近隣市町の方はもとより、西条市、松山市、そして高知県や福岡県からお越しの方も含め、約60名の来場者がありました。遠方からの参加者が多くみられたことは、あちこちでこのような問題が起きており、関心が高まっているテーマだということを示唆していると思います。先進的な試みで、私も発表者の一人でしたが、大変勉強になりました。
等妙寺旧境内は、鎌倉時代末期に創建された山岳寺院の跡で、文献史料や考古学的な調査によってその価値が明らかにされ、全国に誇れる文化財として平成20年に国指定史跡になりました。
現代社会に活かしながらより良い状態で将来に伝えるべく整備・調査事業を進めているところでしたが、平成23年に大規模な地滑り災害によって、寺の坊院跡である平場が埋没し、一部損傷している可能性もあるという事態になってしまったそうです。
なぜ、このような災害が起きたのか、その原因の解明を専門家を交えて徹底的に行っておられ、二度とこのような災害が起きないためにはどうしたらよいかを真剣に考えられていました。その町を挙げた熱意に感銘を受けるとともに、具体的な対処方法について大変勉強になりました。
松山城、宇和島城も同様に、災害の原因解明と対処方法についてのお話がありました。とくに宇和島城では、クスの根の伸長によって石垣が崩壊したという事例には改めて衝撃を受けました。根の伸びる力(伸長圧)は、1㎠あたり10㎏もかかるそうです。
石垣の背後に大きな木があるというお城は、私もいくつか思い当たりますが、全国的にも多いのではないかと思います。顕在化してないだけで、実際、多くの被害があるのではないかとも想像できます。
能島城は幸い大規模な災害を近年経験していませんが、その危険性は持っている、高まっていると思っています。今回の事例発表では、とくに、樹木の根によって何百年も残ってきた遺構が破壊されているという事実を紹介しました。
詳しくは、当日の資料を下記よりダウンロードしてご覧ください。
http://www.islands.ne.jp/imabari/bunka/suigun/topics/h24kihoku.pdf
(主催者の許可をいただいて掲載しています。転載等の二次利用はご遠慮ください。)
また、植生管理については、愛媛大学名誉教授の江崎次夫先生のご講演で、具体的な対処方法やその考え方についてのご提言がありました。江崎先生は、地下に眠る遺跡に与える影響が大きい樹木の種類を根系の図とともに具体的に提示されました。先生のお話で、私がもっとも印象に残ったことを以下に要約してご紹介します。
植生はキャパシティ(許容能力)が大きい。伐採しても、明日、明後日にとはいかないが、長い年月をかけて再生することができる。それに比べれば文化財のキャパシティはとても小さいのです。つまり、壊れてしまえば再生できない、復元したとしてもそれはあくまでイミテーションであって、元の価値には二度と戻りません。つまり、一度でも壊してはいけないのです。ですから、文化財が「主」、そして植生は「従」の関係であることをよく認識しなければいけません。一方で、植生が史跡に与えるのはマイナスの影響だけではありません。適切に管理してやれば、素晴らしい景観をつくり出すことができます。プラスの影響を与えるのもまた植生なのです。このプラス・マイナス両面の影響をまずは正しく理解して、自然環境と融和した形で史跡の保存と活用をはかっていくことが求められるのです。
江崎先生は本来、樹木を生育させることがご専門です。植生の持つキャパシティを熟知された先生が発せられたこのメッセージは、とても説得力があり、参加者の方も真剣に向き合っておられたように思います。
愛媛大学名誉教授の下條信行先生がコーディネーターをつとめられた後半のシンポジウムでは、まずは、ソメイヨシノの根が史跡を壊すという問題について議論され、全国の城でこのような問題が起きているということが認識されました。以前にもお伝えしましたように、能島城の被害状況のこの写真は、参加者の方にとてもインパクトがあったようです。
能島城のソメイヨシノの今後については、また機会を改めてお話したいと思います。
また、史跡の保存活用に適した植生管理の方法についても議論され、さらにはその担い手として、地域のボランティア活動に注目が集まりました。宇和島城では、多くのボランティアさんが城を守り伝えていくために活動されておられるそうで、その熱意と行動力にとても感動しました。当館のミュージアムパートナーさんも将来的には館の外に飛び出して、能島城をはじめとした文化財の保護活動も一緒に行えたら素晴らしいなと思いました。
城跡に咲く桜を見て、きれいだなと感じる方はとても多いと思います。しかし、その足もとには根がものすごい伸長圧で広がっており、地中に埋もれている遺構を破壊しているという現実にも目を向けなければいけません。
まずは、このような植生が史跡に与えるマイナスの影響を知ることが重要で、その上で地域住民の方の理解を得ながら、対処していかなければいけないと思いました。
一方で、共存する植生を正しく選択して、そして適切に管理すれば、素晴らしい景観を保持・形成できるということも、松野町の史跡河後森城跡の事例などで実証されています。
自然環境との融和をどのように図っていくか、今回のシンポジウムでは、能島城が目指すべき方向性を再確認できたと思います。先進的で、大変有意義なシンポジウムでした。
このシンポジウムの資料集をお求めの方は、下記までお問い合わせください。
鬼北町教育委員会(電話0895-45-1111)
少しかたい話になりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。(K)